2010年 09月 16日
Tomio Seike 写真展"Untitled"
欧米のアート写真シーンで活躍中の写真家トミオ・セイケの新作写真展「Untitled」です。本展の特徴は、これまでライカ使い、銀塩プリントのマスターと呼ばれるセイケが、コンパクト・デジタル・カメラとインクジェット・プリンターで作品を制作したことです。今回は、プラハ、アムステルダム、ブライトンなどの欧州の歴史的な面影が残る都市風景を撮影しています。
彼の試みの背景には、写真界における最近の急激なデジタル化があります。工業製品であるフィルムはいつメーカーの都合で生産中止になるかわかりません。しかし写真家はもしフィルムがなくなっても立ち往生するわけにはいきません。
セイケは過去数年間にわたり、このような問題意識を持ってデジタルで作品制作の可能性を探してきました。銀塩写真で自分のオリジナルを確立した彼のプリントは、コレクターが見ただけでセイケ作品と見分けられるようになっています。セイケには、デジタル作品であっても、そこに明確な作家のシグニチュアーを残せなければオリジナリティーを確立したということにならない、という強い思いがあるのです。
彼はメーカー提供品をテストしたのではありません。納得のいくものを自費で購入し試行錯誤を続けてきました。デジタルカメラでの作品制作プロジェクトはシグマのDP2との出会いから具体化します。DP2には、デジタル一眼レフとほぼ同じサイズのイメージセンサーと、カラーフィルターを必要しないRGBの3原色が揃ったフルカラーキャプチャシステムを搭載しています。結果的にはこの小さなコンパクト・デジカメが彼にデジタル写真の可能性を伝えたのです。
写真界の一部には、アナログカメラ、銀塩写真にこだわりも持つ人たちが存在します。しかしセイケはこれまでの銀塩モノクロームを携えつつも、デジタルカメラとインクジェット・プリントに可能性を探る作業を静かに進めているのです。今回のDP2による作品発表は、これから始まる彼の新しい挑戦の第一歩となるでしょう。
傍目には、セイケはライカとモノクロームプリントという保守的な写真作家と見られているかもしれません。しかし、彼は保守を貫きながらもそこからの新しい眼差しも備える作家なのです。ロンドンの老舗写真ギャラリー、ハミルトンズのディレクターは、セイケとデジタルを語った日、彼自身初めてデジタル写真の存在を意識したということです。セイケの本質が伝わってくる逸話だと思います。
トミオ・セイケは作品がファインプリントとして評価されている数少ない日本人写真家です。新たなチャレンジの先駆けとなる本展では、シグマDP2とSD14で撮影され、デジタル・アーカイバル・プリント(*)で制作された約25点が展示予定です。またセイケには珍しいカラー作品の参考出品、プラチナ・プリントとインクジェット・プリントの同時展示も行います。
(*)デジタル・アーカイバル・プリント
写真家、専門家による厳しい管理下で、使用インク(顔料系)や無酸紙にこだわり、高品位インクジェット・プリンターで制作されるデジタルプリントのことです。銀塩写真なみの耐久性があると言われています。
Tomio Seike 写真展"Untitled"
2010年 9月17日(金)~ 11月27日(土)
1:00PM~7:00PM/ 休廊 日・月曜日 / 入場無料
ブリッツ・ギャラリー(アート・フォト・サイト東京)
by waits-00
| 2010-09-16 00:51
| 写真展